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大阪地方裁判所 昭和39年(ヨ)3719号 判決 1967年1月27日

申請人 矢野昌之

被申請人 株式会社大阪読売新聞社

主文

本件仮処分申請はこれを却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

申請代理人らは、「被申請人は、申請人を従業員として取扱い、且つ昭和三九年一〇月三日以降毎月二五日限り一ケ月一八、〇八〇円の額の金員を支払え」、との判決を求め、被申請代理人らは主文同旨の判決を求めた。

第二、申請人の主張

一、(当事者)、被申請人は日刊紙の発行を業とする株式会社(以下単に会社という)であり、申請人は昭和三八年四月一六日臨時社員として同社に雇われ同年九月一日試用となり後記解雇の意思表示を受けるまで毎月二五日一ケ月一八、〇八〇円の額の賃金の支払を受けていたものである。

二、(解雇)、会社は昭和三九年一〇月三日、申請人に対し、社員試用試用規則一二条一、四号、就業規則一四四条四号を適用して解雇する旨の意思表示(以下単に本件解雇という)をした。

三、(解雇無効)、本件解雇は次の理由で無効である。

(一)、社員試用試用規則を適用したことの誤り、会社の社員試用試用規則(以下単に試用規則という)四条は試用期間を一ケ年とし、同二条は同期間中本人の身上素行、健康、技能、勤務成績を審査し適格と認めたものは同期間満了とともに社員に採用する、不適格と認めたものは同期間中でも解雇することができると定め、同一二条は試用の解雇事由としてその一号に身上素行、健康、技能、勤務成績が従業員として適格を欠くと認められたときを、その四号に就業規則一四四条の規定にふれたときをかかげ、更に就業規則一四四条四号は従業員の懲戒解雇事由として業務上の命令に従わずまたは業務を妨害したときを挙げており、これらの規定が本件解雇の根拠条文となつている。

ところで右試用規則一二条が試用期間中に解雇する場合の準則であることは同規則二条との対比において明瞭であり、他方申請人が試用となつたのは前記の通り昭和三八年九月一日であり、本件解雇当時は一ケ年の試用期間の満了により本採用の社員たる地位を取得していたものであるからこれに対し試用規則一二条を適用することは許されない道理である。しかるに本件解雇はこの道理を無視し右規則を適用してなされている。

(二)、解雇理由の不存在、仮りに試用規則一二条の規定が申請人に適用されるとしても、申請人は入社後真面目にその業務を遂行し身上、素行、健康の面でも適格性を欠く事実なく且つ業務命令に従わなかつたり会社の業務を妨害したりした事実もないから同条に定める解雇事由は存在しない。よつて本件解雇は正当な理由にもとづかないでなされものである。

(三)、信条を理由とする差別、本件解雇は申請人が日本共産党(以下単に日共という)の支持者で民主青年同盟(以下単に民青という)に所属しているところからその思想信条を理由としてなされた差別的取扱であつて憲法一四条労働基準法三条に違反する、すなわち

(1) 昭和三四年一一月から同年一二月にかけ会社のなした勤務時間の変更に反対し販売局発送部(以下単に発送部という)において激しい職場斗争が行われたが、会社はその頃から反共的態度を強固にし、申請外読売新聞労働組合(以下単に組合という)の組合員中日共党員もしくはその同調者とみられる申請外江川貫一、同渋谷国雄、同山本亮治、同神元正博、同松村茂らを組合の機関から排除しようとして露骨な介入行為を行つた外、同人等に対し種々攻撃を加えていた。

(2) 申請人は右申請外人等、特に神元正博と親しく同人とともに民青の集会、学習会に参加していたので会社はこれらの事実から申請人を民青員であり日共同調者であるとみて当初その転向を期待してか昭和三八年一〇月頃同部発送課浦田作一副課長を通じて申請人に対し右神元正博らと附き合わないよう注意する等のことがあつた。

(3) 申請人は試用者中唯一人、同三九年のメーデーに参加し、前記神元等と行動を共にしたが、このことが会社の忌諱にふれた。

(4) 申請人と同時に発送部の試用となつた者の数は申請人を含めて一三名であり、それらの者の間で勤務成績に優劣はなかつたにもかかわらず、他の一二名について昭和三九年九月一日付で社員に登用する旨告知しながら、申請人にはその告知をしなかつた。

(5) 右告知に関連して発送部発送課の井町副課長は申請人に対し前記江川等と袂を別てば有利に取扱う趣旨の発言をした。

(6) 本件解雇当日及びその後発送部長鈴木紀寿は他の従業員に対し申請人を操つている者が憎いとか申請人は民青であり解雇してよかつたとかいう趣旨の発言をした。

以上の事実があるのであつてこれらの事実に徴すれば会社は申請人が共産主義的思想を有する者のグループに属することを嫌悪し、改めさせようとして失敗するや、転じて同人を社外に放逐しようとし、先ず社員登用に際し他と差別的取扱をなし、次いで本件解雇に及んだ経緯が明瞭に看取し得るのであつて、右解雇が思想信条による差別的取扱であること明白である。

四、(必要性)、本件解雇は以上いずれの理由によつても無効であり申請人は会社を相手に従業員たる地位の確認と賃金支払を求める本案訴訟を提起すべく準備中であるが、申請人は他に資産なく、会社から受ける賃金のみで生活しているので右本案判決を待つていたのでは生活が危殆におち入るおそれがある。よつて本件申請に及ぶ。

第三、申請人の主張に対する会社の答弁

第二の一の事実を認める。但し申請人の入社当時の地位は臨時雇である。

同二の事実を認める。

同三の解雇無効の主張を争う。

同三の(一)の事実中申請人主張の内容の諸規則の存在を認める。申請人に対し試用規則一二条を適用した根拠については後述する。

同三の(二)の事実を否認する。

同三の(三)の冒頭の主張を争う。

同三の(三)の(1)乃至(6)の事実中、会社が申請人と同時に試用となつた一三名中申請人に対してだけ社員登用の告知をしなかつたとの点を認め、その余を否認する(但し申請人の交友関係、その思想信条、メーデーに参加したことの有無等は知らない)。

同四の主張を争う。

第四、会社の主張

一、(試用期間の延長)、会社における社員採用の手続は、当該従業員につき勤務成績等を審査し社員としての適格性を有するか否かを判定するため一ケ年の試用期間を置き(試用規則二条、四条)適格と認めた場合は健康診断を受けさせた上社員に採用し、不適格と認めた場合は試用期間満了と同時に雇傭関係を終了させるか、又は試用規則四条但書(会社が必要と認めた場合または特に理由のある場合は試用期間を延長し得る旨の規定)を適用して試用期間を延長するのが例であるが、申請人については試用期間満了前、社員としての適格性の有無を審査したところ同人は(一)平素から作業につく時間がおそくキヤリヤーの取扱が非常に乱暴である等目立つて勤務成績が悪かつたのであるが、(二)昭和三九年七月四日、午後六時四〇分から七時迄の間自己に課せられた業務である綿布折り作業(市内版を包装するための綿布を整理しておく作業)をしないで寝そべつており、上役である副課長代理から命令されてもなお就労せず、副課長の指示を受けてやつと就労した。(三)大阪駅における追込み荷おろし作業の応援を命ぜられた際の仕事ぶりはもともと甚だ不熱心でありその都度山本巌大阪駅駐在主任から注意を受けていたが改めることなく昭和三九年八月一〇日頃同駅において他の従業員は勿論下請運送会社の運転手まで荷おろし作業を手伝つているのに独り茫然と傍観し仕事をしなかつた。

以上の各事実が判明したので、会社は同年同月一三日試用期間の延長を決定し同月一四日及び二四日の二度に亘り発送部庶務係員山村泰三をして申請人に対し試用期間満了するも社員に採用しない旨を伝えさせ、なかんずく後の場合には試用規則四条但書を示して試用期間が延長されたことをも併せ通告したのである。

右の事実によれば申請人は本件解雇当時なお試用の地位にあつたのであるから、これに対し試用規則一二条を適用することは正当である。

二、(解雇)、会社は試用期間延長を決定した後申請人の勤務態度が改まることを期待したのであるが、この期待は裏切られた。すなわち申請人は、

(一)  昭和三九年八月一四日所謂ハトロン揚(新聞包装用のハトロンを二階の整備室まで運び上げる作業)の際同僚全部が作業に従事しているのにかかわらず無断で職場を離脱し発送課主任から厳重注意を受け、

(二)  翌一五日、当日は一八時出勤であつたにかかわらず事前に連絡することなく一九時三〇分頃出勤した。しかも遅刻の原因は枚方方面へ遊びに行つたことであつた。

(三)  社員に採用されないことが判明した後、これに対し不満をとなえるばかりで反省の色はさらになかつたが、同年九月一一日右(一)と同様の行為を繰り返した。そこで会社は前記一の(一)(二)(三)及び右の(一)(二)(三)のすべての事実を総合斟酌した結果、申請人は会社の従業員としての適格性を欠き且つ業務上の命令に従わなかつたものと認め、試用規則一二条、一、四号、就業規則一四四条四号を適用して本件解雇の意思表示をしたものである。

三、(解雇の承諾)、申請人は昭和三九年一〇月三日、人事部長から本件解雇の諾否を問われたのに対し同日午後五時頃承諾する旨回答し且つ賃金及び予告手当を受け取つたから、も早や本件解雇の無効を主張し得ないものである。

第五、会社の主張に対する申請人の反ばく。

一、試用期間の延長は被傭者にとつて重大な利害関係のある事柄であり、且つ本件試用期間は一ケ年という異常に長いものであるから、これを延長するには合理的な理由がなければならず、且つその理由と期間とを明示した告知を必要とする。しかるに本件試用期間の延長は右の要件のすべてを欠いている。すなわち先ず、会社が試用期間延長の理由として主張する(一)乃至(三)の事実は存在しない。なかんずく(二)については所謂綿布折の作業は朝刊一五版に使用する綿布を朝刊八版の発送終了後同九版の発送にかかるまでの約一時間の待機時間中に一人五〇枚宛整理するものであるところ、申請人は当日一八時に出勤し朝刊八版のでる迄の約二〇分間に約二五枚を整理し残りの二五枚は朝刊八版の発送終了後整理する予定でいたが身体の調子が悪く且つすでに二五枚は整理済で時間に余裕があつたのでしばらく横になつていたところ浦田副課長に注意されたにすぎないのであり、同(三)については、大阪駅における追込作業の応援は元来荷分係の職分であつて申請人が担当する紙取係の職分ではないのであるが、かりに申請人が応援した事実があつたとしてもそれは公休明けの一九時三〇分出勤、泊勤務の場合に限られており、他方その日の山本大阪駅駐在主任の勤務時間は一八時迄となつているから、両者が大阪駅で逢うことはなく従つて同主任から注意を受けることはあり得ないという事実に徴し、会社の主張は全くの虚構といわざるを得ない。次に申請人は試用期間延長の告知を受けていない。山村泰三が申請人に語つた言葉は本採用予定者に対して行う健康診断に使用する用紙で申請人用の分が来ていないということと、試用規則二条但書により試用期間が延長されたのではないかということだけであつて、これを以て試用期間延長の適式な告知とは到底目し得ないものである。しかのみならず、本件試用期間の延長が思想信条を理由とする差別的取扱であることは前記第二の三の(三)に述べた通りであるから、かりに前記延長の要件を充たしているとしてもなお憲法一四条、労働基準法三条に違反することを免れない。

以上の理由により本件試用期間の延長は無効である。

二、会社が本件解雇の事由として挙示する各事実中第四の一、の(一)乃至(三)の事実の存在しないことは右に述べた通りであるが、第四の二の(一)乃至(三)の事実についていえば、八月一四日及び九月一一日の各ハトロン揚の作業に間に合わなかつたこと、八月一五日に遅刻したことは認めるも、このようなことは誰にでもしばしばあることで特に申請人だけを責めることは酷であり、況んや解雇の理由とするには余りに軽微な過失である。

三、解雇承認の事実を否認する。申請人は終始本件解雇を承認する意思なく、予告手当を受取つたのはそのことが解雇の承認を意味しないと考えたからである。しかも右予告手当は誤解をさけるため受領、直後に返還しているのであるから、右予告手当受領の事実が解雇承認の徴表となることはあり得ない。

第六、(疎明省略)

理由

一、争のない事実

申請人が昭和三八年四月一六日会社に臨時雇(申請人の主張によれば臨時社員)として入社し同年九月一日付で試用となつたこと、会社が申請人に対し同三九年一〇月三日付で解雇の意思表示をしたこと及び申請人主張の内容の試用規則並びに就業規則が存在することは当事者間に争いがない。

二、申請人の地位と試用規則一二条との関係

本件疎明資料によれば会社主張第四の一の各事実をほぼ一応認めることができる。すなわち試用期間が満了した場合の取扱の点については証人荒井正司の証言により、試用期間延長の理由となつた事実中(一)の点については証人鈴木紀寿、同喜多修の各証言により(二)の点については証人浦田作一の証言(第一回)により、(三)の点については証人山本巌の証言により、いずれも会社主張の事実が疎明され、この疎明に反する証人山本亮治(第一回)、同渋谷国雄、同松村茂(第一回)、同神元正博、同山中健司の各証言及び申請人本人尋問の結果(第二回)は措信しない。試用期間延長の告知の点については、発送部庶務係山村泰三が八月一四日頃、本採用予定者に交付すべき健康診断用紙の交付を申請人から要求されたとき、「君は社員に登用されないのだから診断を受けなくてよい」旨告げ又同月二四日頃申請人に対し試用規則二条但書により試用期間が延長された旨告げたことが証人山村泰三の証言により一応認められる外、発送部長鈴木紀寿が昭和三九年九月四日余人のいない会社応接室で、申請人に対し右(一)乃至(三)の事実を挙示した上社員に登用しない旨及び勤務態度を改めれば何時でも社員に登用する旨口頭で告知した事実が右鈴木の証言により疎明せられる。

ところで試用期間の延長は通常被傭者に対し、大きな不利益をもたらすものであるから、これを必要とする特別の事情がない限り一方的にすることを許されず、殊に思想信条を理由に他と差別してなし得ないことはいうまでもなく、又それを告知する形式も明確且つ厳粛でなければならない。よつて先ず、本件試用期間の延長につき右特別の事情が存するか否かについて検討するに、前記疎明にかかる(一)乃至(三)の事実によれば、申請人がその性格怠惰粗笨で協調性なく業務遂行の熱意と責任感とを欠き、多数人の協同作業により短時間に多量の新聞を発送することを任務とする発送部の従業員として不適格であることをうかがい知ることが出来るから、八月一三日の時点において同人に対し試用規則一二条一号を適用しこれを解雇することも可能であつたと考えられる。しかるに会社がその挙に出でず、同日試用期間の延長を決定した理由は、延長期間中に申請人の勤務態度が改まることを期待し、そうなれば社員に登用しようとの配慮によるものであることが前記鈴木証言により疎明せられる。ところで解雇理由があるにもかかわらず、被傭者の利益のため、解雇を猶予することは当該被傭者に対し何らの不利益をもたらすものではないから禁止する必要はなく、且つこのような場合使用者のとるべき措置は試用期間の延長以外に考えられないのであつて、そうだとすると本件試用期間の延長はその動機において許容すべくその方法においてやむを得ないものと云わざるを得ない。よつて前記特別事情の存在を認むべきである。次に思想信条との関係について見るのに、本件試用期間の延長が同時に試用となつた一三名中申請人についてのみなされたことは会社の認めるところであるが、このような差別が申請人の思想信条に起因するものと認め得ないことは本件解雇におけると同様であり、そのように判断する理由も亦これと共通するからその開示は後記四の説示にゆずることとする。最後に告知の形式について審案するのに、この点に関する前認定の事実中、山村と申請人との間のやりとりはそれだけでは前記の要件を充たしているとはいえないけれども他方申請人の上役である発送部長(申請人に対し試用の辞令を伝達したのもこの発送部長であることが申請人本人第一回尋問の結果により認められる)が、かなり慎重な態度で申請人に対し理由を示した上で社員に登用しない旨、及び勤務態度を改めれば直ちに登用する旨を告げていること前認定の通りであつて、これらの事実を総合すれば本件試用期間の延長の告知には申請人が主張するような瑕疵はないものというべきである。

以上の判断に従えば本件試用期間の延長は有効であり、申請人は本件解雇当時なお試用の地位にあつたことになるから、試用規則一二条を適用することは当然である(同条が本来の試用期間中の者たると、延長された試用期間中の者たるとを問わず、試用者一般に適用せられることは同条の文理解釈上明らかである)。よつて申請人が同条適用の範囲外にあるとする同人の主張は採用できない。

三、解雇事由の存否

本件解雇の直接の原因として会社が主張する第四の二の(一)(二)(三)の事実中、申請人が八月一四日及び九月一一日のハトロン揚げの作業時間に間に合わず、八月一五日に遅刻したことは申請人の自認するところである。これらの行為の一つ一つは軽微であり、解雇の理由とするに足りないけれども、度重なるときは不適格性のあらわれとして解雇の理由となりうる。本件の場合右の行為は前に疎明された第四の一の(一)(二)(三)の事実の上積みとしてなされたものであり、殊に九月一一日の件(申請人本人第二回尋問の結果によれば喫茶店にいたため間に合わなかつたことが認められる)は、試用期間延長の告知を受けた後において、申請人が依然として従来の勤務態度を改める意思を有しないことを示した出来事として重視されねばならない。しかも会社はこのような事実があつたにもかかわらずなお解雇をためらつていたが、九月二八日申請人が発送部長に対し社員不登用の理由を詰問するに及んで反省の色なしと判断し、ようやく解雇にふみ切つたことが前記鈴木証言により疎明せられるのであつて、以上試用期間延長決定の前後を通じての申請人の行状と、これに対する会社の慎重な取扱とを対照しつつ事の当否を判断するならば、ここに至つて会社が試用規則一二条一号に則り、申請人を解雇する処置を措つたことはまことに止むを得ないところであつて、このように考えれば解雇権の行使につき申請人が主張するような瑕疵はないものといわなければならない。

四、信条を理由とする差別の有無

右三に疎明せられた事実によれば本件解雇は申請人の適格性に対する不信を原因としてなされたものと推認されるが、他方申請人が共産主義的信条の持主であり会社内の同じ思想を持つた者のグループに属することを会社が嫌つていたことは証人神元正博の証言等により疎明せられるから、前記試用期間の延長といい、本件解雇といい、いずれも右信条に対する嫌悪を真の原因としてなされたものではないかとの疑を生ずる。この点に関し、発送部長が、前記試用期間延長を告知する際、申請人の思想に異常な関心を示して種々質問し、又一〇月三日解雇を論議した際申請人に対し共産党に操られていることを遺憾とする趣旨の発言をしたことが、申請人本人尋問の結果(第一回)により、疎明され、更に申請人主張第二の(三)の(6)の事実が証人江川真一(第二回)、同山本亮治(第二回)の各証言により疎明せられるけれども、いずれも信条に対する嫌悪が適格性に対する不信に優越して本件解雇乃至試用期間延長の決定的原因になつたことの証左とはなり得ず、その他の申請人援用の各証言はいずれも具体性を欠くかもしくは間接的であつて、この点に関する疎明資料とするに足りない。よつて本件解雇を目して信条による差別的取扱であるとする申請人の主張は採用できない。

五、結論

以上、述べたところに従えば本件解雇は一応有効であるからその無効を前提とする本件仮処分申請は被保全請求権の存在につき疎明なきに帰し且つ保証をもつて右疎明に代えることは適当でないので右申請は結局失当である。よつてこれを却下することとし申請費用の負担については民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 入江教夫 小北陽三 近藤寿夫)

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